記録 自分用

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普仏戦争の呪縛/「知識ゼロからのユーロ入門」

kindle版だと値段が安い本が多く、軽い気持ちで買っては積むということが少なくない。積ん読積みゲーという言葉もあるぐらいだからそう珍しくはないだろう。この本もそんななかの一冊である。

そして大抵こういうのを読むときに理由なんてものはなく、ただなんとなくで読み始めてそれなりに面白かったのでそのまま読了した。勢いは大事。まぁそんなに内容が難しくないことも理由の一つだろう。

知識ゼロの人を対象にしているだけあって、ある程度はユーロについて知っている自分にとっては知っていることも多かったが、新たな知識も手に入った。大学の授業で習ったことを体系的にまとめ直した感じだろうか。授業だと切れ目がある分なんで急にこの話をし始めたのかわからないことも多い。本当は全体を通して復習でもすればいいんだろうけど。でもこの本だとある概念を説明した次の瞬間にそれを利用し始めるのでありがたかった。あとユーロだけじゃなくて中央銀行の役割とかも軽くまとめられている。

驚いたのは概要を1ページ以内に抑える技量で、特に尻切れとんぼ感もなくまとめていてすごいなと思った。個人的に図解が多い本はあまり好きではないのだけれど、こういう風にうまくまとまっている分にはわかりやすくてよい。

 

以下内容について。

ユーロ導入まで

通貨統合に代表される欧州統合が独仏間の抗争の反省だということは戦後史の授業で習った記憶がある。例えば普仏戦争後のアルザス・ロレーヌ、一次大戦後のルール占領のように鉄鋼が原因で戦争することが多かったわけだからその対策として欧州石炭鉄鋼共同体をつくったというストーリーだ。ここらへんは世界史と現代史が繋がる感じがして好きだった。

通貨統合に関しては、東西ドイツ統一で悪夢再来を恐れるフランスが統一を認めるための楔として打ち込んだというストーリーが書いてあってなるほどなと思った。つまりドイツの持つ最強通貨マルクを放棄させる代わりに統一を認めるということである。まあこのシステムをギリシャらにハックされたわけだが、ギリシャを入れざるを得なかった理由(冷戦にしろヨーロッパ文明開花の地としてのプライドにしろ)を考えるとフランスの気持ちがわからないでもない。

ユーロ誕生までにはスネーク制や共同フロート制などいろいろあったようだが、要約すればニクソンショックスミソニアン体制(変動幅の大きい固定相場制)→変動相場制というようにドルに対する信頼が揺らぐ中で、なんとか欧州内の通貨の変動幅をおさえようとしていたが英仏伊あたりがあまり参加しなかったこともあり失敗したといところだろう。まぁインフレファイターのいる西ドイツとその他先進国の通貨協力は難しそうである。

しかし1973年、1979年の石油危機あたりで西ドイツのシュミット主導で通貨統一が進められ、イギリス以外のEC加盟国で帳簿上の単位ECU(エキュ)を導入した。このときECU参加通貨の貨幣価値が大きく変わらないように、変動幅を2.25%が超えそうなら介入する欧州為替相場メカニズム(ERM)も導入された。ECUとERMはユーロ導入(1999年)までの20年ほど続くわけだが、このときの金融政策は西ドイツに各国が従う形であったらしい。フランスのストレスがたまりそうな展開だなぁ。ちなみに通貨を管理する主権自体は各国にあるので、これはユーロと大きく違うポイントになる。

なおここで加入しなかったイギリスは1990年になって加入するも、ソロスさんに目をつけられてポンド売り浴びせを食らいブラックウェンズデーを引き起こしたうえで1992年に脱退した。残念。東西統一してインフレ進行中のドイツの金融政策に合わせて不況のイギリスまで利上げしてしまったせいでポンドが不当に高くなっていたのだろう。本当ならポンド売りまくられた段階でイングランド銀行だけでなくドイツ連銀あたりも買いまくるはずだったのに買い支えてくれなかったそうだ。

1980年代にヨーロッパの単一市場化が進められると、共通通貨の必要性が高まり、1992年にマーストリヒト条約を締結した。この条約では共通通貨導入に加え各国の通貨管理の主権が欧州中央銀行に預けられることになっており、ドイツに従うことをひどく嫌ったフランスの思惑が入っていたらしい。こいつらほんと仲悪いな。

ユーロ導入後ユーロ危機まで

ユーロというか共通通貨の弱点として真っ先に思いつくのは、自国産業が弱くなろうと通貨安になることがないので一度死ぬとどうしようもなくなるということだった。逆にいえば時刻産業が強かろうと通貨高にならず輸出好調が続くということでもあり、ドイツ繁栄の理由になっていると思う。

じゃあなんでそんな制度に産業の弱い国が入るのかというと、ユーロ導入で国債利回りが低下(つまり国家の信頼が増加)するのでそれをうまく使って自国産業を強化できれば...ということであるらしい。実際西欧から南欧への投資は通貨統合後に増えているし、思惑としてはそこまで間違っていないのだろう。問題はそれらの金を国・企業・家計が投資することなく安易に消費にまわしてしまったことである。ここらへんで命運が別れた気がする。

この段階でリーマンショック(2008)が起きて一斉に資金が引き上げられ南欧の金融機関は倒産危機になり、これを救おうとした各国政府の財政に致命傷を与えた。つまり金融危機を救おうとしたら財政危機が起きたわけである。これでかなりやばい状態だったところにギリシャ政権交代財政赤字の暴露(2009)が着火しユーロ危機が発生する。これは同じく財政が悪化していたポルトガル(2011)とリーマンショックで不動産バブルが崩壊したアイルランド(2010)に飛び火し、3国とも欧州委員会欧州中央銀行国際通貨基金IMF)による支援を受けることになった。この3機関に引っ張られる様をなぞらえてトロイカと呼ばれる。

この後も財政再建中のギリシャが不平を言い出したのがきっかけで西欧の金融機関がピンチになりスペイン・イタリアあたりの国債利回りが急騰する自体になったが欧州中央銀行のドラギ総裁がなんとしてもユーロを守るとして投資家を鎮め、危機を収めた。

ドイツの意向で自己責任論が強かったユーロのシステムはこれ以降いろいろ変化し、欧州中央銀行がやばい国の国債を直接無制限に買い取る仕組みややばい民間銀行に長期の貸付を行う仕組みを整えた。まぁドイツの主張は金融がグローバル化する前では正しかったのかもしれないが、競争が激化した現在ではあまりにも理想主義だなぁと感じられる。あとギリシャらへの風当たりの強さは東西ドイツ統一後の不況を乗り切り「欧州の病人」を脱却した自負からくるものだという指摘にはなるほどと思った。最適通貨圏の条件の1つに財政移転の必要性が挙げられているが、ドイツは死ぬほど嫌がるだろう。